リード文
不動産業界への登竜門といえば、宅地建物取引士の国家資格である「宅建」を思い浮かべる方も多いでしょう。
しかし、宅建試験では扱われない不動産業界特有の用語の習得も実務上は大切です。
「郷に入らずんば郷に従え」という日本のことわざにあるように、「新しい環境に入ったら、その土地の習慣や文化に従う」ことも、業界特有の実務を理解する助けになります。
不動産歴40年、仲介営業の売買やコンサルティングを主に行ってきた私が、今回はそんな特殊な不動産用語をわかりやすく解説します。
解説を通して、不動産業界のリアルな裏事情にも触れていきますので、最後までお付き合いください。
不動産用語の解説
不動産用語は一般には馴染みのない言葉ですが、その一つ一つに不動産のさまざまな側面が見えてくる面白さに気づくことでしょう。

以下のカテゴリーに分けて、不動産用語を解説します。
- 物件扱い
- 業者間の取引形態
- 価格
- 販売方法
- 土地
- 建物
- 住宅ローン
- その他
物件扱いについての不動産用語
元付物件(直物件)… もとづけぶっけん(ちょくぶっけん)
宅地建物の売買の仲介において、売主側の顧客から直接に売買の依頼を受けている物件であることをいいます。
つまり、売主より直接媒介依頼(代理を含む)を受けている物件のことになります。
元付を担う業者は元付業者と呼ばれています。
先物 … さきもの
不動産業者が他業者からの問い合わせに対し、元付業者が別にいる旨を伝える際などに使われます。
先物を扱っている業者は、売主や買主からの直接の依頼先ではなく、仲介手数料の入手先が未定であるため業者間での仲介手数料の分配について、事前に取り決めをしておく必要があります。
事故物件 … じこぶっけん
権利について紛争があったり、自殺や他殺、浸水・倒産などの事故の場所となった宅地建物をいいます。
取引価格は、事故の事情を反映して低くなるケースがほとんどです。
事故物件は、物件の購入や賃貸を検討する人にとって心理的な抵抗や、将来的な資産価値に影響を与える可能性があるため、宅地建物取引業者は重要事項として説明する義務があります。
業者間の取引形態についての不動産用語
客付 … きゃくづけ
売却を依頼された不動産の買手を見つけることをいいます。
売却を依頼された不動産会社が自ら客付するとは限らず、他の不動産会社の紹介で買手が見つかることも多くあります。
宅地建物の仲介業務においては、元付を担う業者(元付業者)と客付を担う業者(客付業者)が異なり、両者が共同して取引を成立させるケースも多いです。
分れ … わかれ
売主・買主のいずれか一方が業者紹介による取引の場合、両業者は直接のお客様からのみ仲介手数料を受け取り、業者間での仲介手数料配分は行わない取引形態をいいます。
両手(往復) … りょうて(おうふく)
売主側および買主側双方の直接の仲介業者として1社が取引をする場合は、取引当事者の双方から仲介手数料を受け取ります。売主ならびに買主の両方から仲介手数料を受領する取引形態です。
不動産仲介会社によっては、仲介手数料額を両手で多く確保したいために、直接の取引当事者が現れるまで、意図的に物件公表を避けたがる業者も存在します。
たとえば、他業者からの問い合わせに対し、一番手がすでに付いている等の嘘をつき物件内覧に応じなかったり、媒介取得後一定期間に指定流通機構レインズへの登録が義務付けられている専属専任・専任媒介物件の登録を意図的に保留しているケースも存在します。
当然にルール違反、モラル違反行為です。
早く取引を進めたい、希望する価格で売りたいと希望する顧客に対しての裏切り行為ともなりますので、ルールを遵守し顧客からの信頼・信用を第一とする業界マナーが求められます。

片手 … かたて
売主側および買主側どちらか一方の直接の仲介業者として取引をする場合、取引当事者の片方から仲介手数料を受け取ることをいいます。
先の「分れ」の場合の仲介手数料受領形態です。

アンコ
売主側と買主側の直接の仲介業者の間に、他の仲介業者がいる取引形態です。
下の図に示したように、1社だけでなく複数の場合もあります。
不動産取引の間に、まんじゅうのアンコのように仲介業者が加わり、隠れていることから「アンコ取引」といわれています。

抜き行為 … ぬきこうい
仲介業者と依頼者(売主・買主・貸主・借主)の間で、すでに媒介契約または代理契約が締結されているにもかかわらず、他の仲介業者が依頼者を誘引して媒介契約等を締結しようとすることをいいます。
他社の売り物件情報を知り、自ら買主を見つけて手数料を多く稼ぐために、売主に直接働きかけて既存の媒介契約を解除させ、自ら媒介契約を取ろうとするケースなどです。
当然にルール違反、モラル違反であり、業者間でトラブルを招く行為となります。
なお、業者間でのトラブルでは済まずに、媒介形態によっては顧客自体が違約金を請求されるケースもあるので注意を要します。
たとえば、先の仲介業者と専任媒介契約や専属専任媒介契約を締結している場合には、他社には媒介契約を依頼できないという契約内容に従い、違約金が発生する可能性が出てきます。

価格についての不動産用語
売出し価格 … うりだしかかく
売出し価格とは、売主側の希望価格を含めた売出し値のことです。
仲介業者は、売主との打合せにおいて近隣の類似物件の取引事例を収集し、売主への価格面のアドバイスとして「査定価格」を提示しています。
市場価格とそれ程大きくかけ離れていなければ、売出し価格は売主の希望に近い価格で、業者の店頭や広告、指定流通機構やウェブサイトを通じて広く公開され、流通されます。
仕切り(仕切り値) … しきり(しきりね)
物件を売却する際に、確保したい金額のことです。
主に業者の社有物件売却の場合に、損益分岐点を鑑みた価格提示としてなされています。
上のせ … うわのせ
仕切り値より算出し、売値を上げることです。
指値 ・・・さしね
買いの希望金額を指定すること。通常、買主からの希望価格をいいます。
最多価格帯 … さいたかかくたい
販売分譲などで、複数の不動産を同時に販売する際に、最も販売物件の多い価格帯を示します。
販売広告は、原則として1区画または1戸当たりの販売価格を表示しなければならないことになっています。
ただし、販売物件数が10戸以上の広告で、すべての価格を示すことが難しい場合には、最低価格、最高価格ならびに最多価格帯とその価格帯の販売物件数を掲載すればよいとされています。
フリーレント
建物等の賃貸契約において、一定期間賃料を無料にすることをいいます。
単純に賃料そのものを下げると賃料相場に影響が生じるので、それを避けフリーレントにすることで、実質的に賃料を割安にする手法です。販売促進の方法の一つとなります。
賃貸ニーズの弱いマーケットで駆使される手法で、主にオフィスビルを埋めるための賃貸斡旋で採用されています。
販売方法についての不動産用語
青田売り … あおたうり
新築マンションや戸建分譲住宅の販売手法として、完成前の宅地や建物を売却することです。
ただし、宅地建物取引業法では宅建業者に未確定要素のある建築確認前の広告や契約を禁止しており、消費者である買主の不安を和らげ、トラブル回避を図っています。
オープンハウス
元来は企業のオフィスや生産施設を、顧客や取引先・投資家に見学をさせて、企業に対する理解度を高めてもらう目的のための企業広報活動のことでした。
昨今は、中古販売の住宅系マンション・戸建の販売促進活動を指しています。新築のモデルルームのように、販売物件の鍵を開けて購入検討者が自由に出入りできる一定の販売期間を設け、営業担当者が常駐をし接客する販売活動のことになります。
おとり広告 … おとりこうこく
実際には取引できない物件が掲載されている広告のことで、客寄せのために行われるものです。
売却済みや、売主に売却意思のない物件などが掲載されている広告などがあります。
このような広告は、当然に宅地建物取引業法に違反し、不動産公正取引協議会の不動産の表示に関する公正競争規約(表示規約)でも禁止されている明白な違反行為です。
囲い込み … かこいこみ
「両手」の箇所でも触れたように、売却を依頼された業者が、意図的に他の業者に物件を紹介しない行為となります。
囲い込みは、当然に依頼主の利益を損ない、倫理にも反した不動産流通取引市場の信頼を損ねるものです。
土地についての不動産用語
更地 … さらち
建物等が存在していない土地のことです。
突っ込み …つっこみ
土地が、狭い通路を通じて道路に出ることができるような形状となっている場合、この土地全体を「突
っ込み」、または「敷地延長(しきちえんちょう)」「旗竿地(はたざおち)」などと呼んでいます。
こうした土地の通路にあたる部分のことは「路地状部分」といわれています。
白地 … しろち
公図上、地番が付されていない国有地のことをいいます。
※公図とは、登記所(法務局出張所など)に備え付けられている地図のことです。土地が一筆ごとに書かれ土地の形状や隣接地との位置関係がわかるように作られたものです。
白地の多くは道路ですが、中に資材置き場や土手などの市町村が把握や管理をしていない国有地もあります。
管理されていない国有地である白地は、長い年月のうちに隣接する民有地に取り込まれ、民間建物の敷地となっている場合もあります。
不動産取引においては、売買対象地に白地が含まれている場合には、売買取引の前に市町村に対して、白地である国有地の払い下げ申請を行い、その承認を得る必要があります。
青地 … あおち
公図で青く塗られた部分であり、国有地である水路や河川敷を示しています。
「青道(あおみち)」とも呼ばれています。
青地も本来は国有地であり一般の宅地にはならないはずですが、白地同様に長い年月を経て水路が事実上廃止され、青地を含む敷地に住宅が建っているケースもあります。
不動産取引においては、売買対象地に青地が含まれている場合には、白地同様に売買取引の前に市町村に対して、青地である国有地の払い下げを受けなければなりません。
赤地 … あかち
公図で赤く塗られた部分であり、国有地である道路を示すものです。
「赤道(あかみち)」とも呼ばれています。
赤地も白地や青地同様に本来は国有地ですが、長い年月を経て道路ではなく、赤地を含む敷地となっているケースがあります。
こちらも不動産取引においては、売買対象地に赤地が含まれている場合には、売買取引の前に市町村に対して、赤地である国有地の払い下げ申請を行い、その承認を得る必要があります。
縄縮み … なわちぢみ
土地登記簿に記載された土地面積よりも、実際の土地面積が小さいことをいいます。
縄伸び … なわのび
土地登記簿に記載された土地面積よりも、実際の土地面積が大きいことをいいます。
地積 … ちせき
土地登記簿に記載されている土地面積のことです。

建物についての不動産用語
上物 … うわもの
土地上に建物が存在している場合、その建物を上物といいます。上物ありなどと呼ばれています。
ただし、「上物」がその字面から「上質なもの」や「優れたもの」といった良いものと誤解されるのを避けるため、不動産業界では「古家あり」といった表記が推奨されています。
行燈部屋 … あんどんべや
窓のない部屋を指します。
行燈をしまっておく暗い部屋というのが言葉の由来といわれています。
建築基準法上、居室表示に求められる採光を得る窓がないために、不動産広告の間取り図では「納戸」「サービスルーム」と表示されて、部屋数にはカウントしないことになっています。
DEN … でん
書斎のこと。
広さや形の基準はなく、間取り図にはDENと表示されることも多いです。
ルーバー
天井や壁面に設けられている固定または可動式の羽根状の板のことです。
デザイン性で評価される事例も多いですが、元来は日照調整を目的にしています。
防水パン … ぼうすいぱん
洗濯機を置くための皿状の台のことで、「洗濯機パン」ともいいます。
排水口と直結し、洗濯機から漏れた水や結露水を溜めて排水するほか、振動が床に伝わるのをやわらげる機能もあります。
ペントハウス
次の2つの意味があります。
- 建物の最上階に設けられた、とても高級な部屋
- 建物の屋上に造られた階段室・昇格機塔などのこと
建築基準法では上記2の意味で取り扱われています。
原則的に建築面積の8分の1までのペントハウスは、建築物の高さおよび階数には参入しないという特例が設けられています(建築基準法施行令第2条)。
アイランド型キッチン
壁に接することなく、独立して設置された調理台の形式をいいます。
部屋内で、アイランド(島)のような形となることから名づけられました。
アイランドキッチンは、対面型のキッチンであるとともに、ダイニングルームや居間とつながったオープンキッチンでもあります。
開放感やコミュニケーション性に優れている一方、設置のために部屋の広さや強力な換気装置が必要となります。
住宅ローンについての不動産用語
親子リレー … おやこりれー
親が借りた住宅ローンを、子どもが引き継いで返済する方法です。
ローン流し … ろーんながし
住宅ローンの借入審査に通ることを特約条件としていた売買契約が、買主のローン借入不能のために解約となり、契約が流れることをいいます。
その他の不動産用語
抑え … おさえ
最優先に購入を検討している間に、他で成約となってしまうことを未然に防ぐために、他からの購入受付を暫し保留とし、物件の流通を止めてもらうことです。
居抜き … いぬき
店舗や工場などで、内部の商品・設備・什器備品などを設置したままの状態で売買・賃貸することです。
居抜きで購入もしくは借りた場合、同じ業態であれば以前のままの内装や設計設備等がそのまま付帯するので、比較的早期に営業に着手、稼働することができます。
建設協力金 … けんせつきょうりょくきん
土地有効活用の一手法となります。
土地所有者である地主が、建物賃借者(テナント)から建設費を借りて賃貸建物を建築する場合の、その借入金をいいます。
一般的に、建設された建物は建設協力金の貸主(建物賃借者)に賃貸され、その賃料と建設協力金の返済額とが相殺されることになります。
他契 … たけい
売却依頼を受けていた物件が、当方ルートではなく、他にも依頼していた仲介業者を通じて成約となってしまうこと。
購入依頼を受けていた顧客が、当方ルートからではなく、他にも依頼していた仲介業者を通じて成約となってしまうこと。
敷引 … しきびき
賃貸借契約において、借主から貸主に交付される敷金のうち、契約時点の特約で借主に返還しないことをあらかじめ定めている一定の金額のことです。
主に関西地方にみられる取引慣行です。
まとめ
宅建試験には出ない不動産用語をみてきました。
いかがでしたでしょうか。
宅建試験には出題されないかもしれませんが、不動産業界の実務の空気を感じるにはとても
面白い、味のある表現も多くあったのではないでしょうか。
不動産取引には大きな金額が動きます。
それを扱う不動産業界や不動産業者には、顧客を守り支援をし、多くの笑顔を導き出す大き
な責任とモラルが求められています。
この奥深く、やりがいのある世界で、あなたもお客様の笑顔を導き出す一人になりませんか?
確かな一歩を踏み出すために、まずはプロに相談してみましょう。
そして、お客様に喜ばれる多くの素晴らしい実績を、積み上げていってください。
