2024年5月17日、「民法等の一部を改正する法律」(令和6年法律第33号)が成立しました。いよいよ2026年4月1日から施行となり、離婚後の子の養育にまつわるルールが大きく変わります。
「離婚を考えている」「すでに離婚している」「不動産の名義をどうするか悩んでいる」……そんな方にとって、この改正は暮らしに直結する重要な情報です。不動産歴40年の筆者が、法務省の公式情報をもとにわかりやすく解説します。
そもそも今回の民法改正、なぜ必要だったのか
日本では毎年約18万件の離婚が成立しています。そのたびに「養育費が払われない」「子どもに会えない」「財産分与がまとまらない」といった問題が繰り返されてきました。
特に養育費の不払い問題は深刻です。ひとり親家庭で養育費を継続的に受け取れているのは全体の約3割程度にとどまっていました(厚生労働省調査)。また、離婚後に父母のどちらかしか親権を持てない「単独親権」を維持している国は先進国でも少数派となっており、国際的にも見直しが求められていました。
こうした構造的な問題を解消するため、今回の改正は「こどもの利益を最優先にする」という理念のもと、親権・養育費・財産分与の3分野を同時に刷新します。
【親権】「共同親権」導入で何が変わるのか
離婚後も両親であり続けるという発想の転換
今回の親権改正で最も注目すべきは、「離婚=親権を失う」という従来の発想が根本から変わる点です。改正後は、父母双方が親権を持ち続ける「共同親権」を選択できるようになります。
共同親権になった場合、子どもの進学先・医療行為の同意・パスポート申請など重要な決定には原則として父母双方の合意が必要です。一方で、食事・衣服・習い事の送迎といった日常的な判断は、主として子どもと暮らす「監護者」が単独で行えます。「重要事項は共同、日常は監護者が担う」という二層構造を理解しておくことが重要です。
また、急迫の事情がある場合(急病など)は、単独での判断が認められています。
DV・虐待がある場合は必ず単独親権に
改正法では、DVや虐待のおそれがある場合は家庭裁判所が共同親権を認めず、単独親権とすることが明確に規定されています。裁判所は「証拠書類の有無」だけでなく、父母それぞれとの関係や生活環境、子どもの意見(年齢・成熟度に応じて)など多角的な事情を総合的に考慮します。
法務省が公表しているQ&A(令和8年3月更新)でも、この保護規定は重点的に解説されています。 (出典:法務省「Q&A形式の解説資料(民法編)」令和8年3月更新)
【養育費】「払ってもらえない」構造を変える3つの仕組み
制度的な欠陥だった「取り決めなし問題」
これまでの養育費制度が機能しにくかった最大の理由は、「取り決めがなければ請求できない」という構造にありました。離婚直後は精神的・経済的に追い詰められているケースも多く、書面で取り決めをする余裕がないまま離婚が成立してしまうことが少なくなかったのです。
改正後は、この問題を解消する複数の制度が一気に整備されます。
法定養育費・先取特権・執行一本化、それぞれの意義
3つの新制度は、それぞれ異なる段階の問題を解決するために設計されています。
法定養育費(月2万円/人)は「そもそも取り決めがない」という入口の問題への対処です。金額は令和7年12月制定の法務省令により確定しています。ただし、これは暫定的な下限額であり、最終的には弁護士を通じた協議・調停で実情に合った金額に増額させることが重要です。
先取特権の付与は「取り決めはあるが払ってもらえない」という中間段階の問題への対処です。これまでは調停調書や公正証書という「債務名義」がなければ差し押さえができませんでしたが、改正後は父母間の書面があれば手続きを進められるようになります。
執行手続きの一本化は「差し押さえしようとしても手続きが煩雑すぎる」という出口の問題への対処です。これまで複数の申立てが必要だった手順が、地方裁判所への1回の申立てで財産開示から差し押さえまで完結するようになります。
【財産分与】不動産オーナー必読。5年間は油断できない
請求期間の延長が不動産取引に与える実務的影響
財産分与の請求期間延長は、一見地味に見えて不動産業界に大きな影響をもたらすと筆者は見ています。2年という期限は、実務上「財産分与の話し合いを引き延ばしているうちに時効を迎えてしまう」という事態を招きやすい構造でした。5年に延びることで、離婚直後の感情的・経済的に不安定な時期をやり過ごした後でも、冷静に財産分与の交渉ができるようになります。
なお、離婚後に元配偶者が不動産を第三者に売却したとしても、所有権移転登記を済ませた善意の買主の権利は法律上守られます(民法177条)。ただし、財産分与逃れを目的とした売却であることを買主が知っていた場合(悪意)は、詐害行為取消権(民法424条)により売買契約が取り消されるリスクがある点は押さえておきましょう。
不動産実務の観点では、売主が離婚直後で売り急いでいる・売却価格が相場より著しく安いといったケースでは、財産分与の決着が済んでいるかどうかを事前に確認することがトラブル防止の基本です。
「貢献度」が法律に明記されたことの意味
考慮要素が法律上明文化されたことも重要な変化です。これまで専業主婦(主夫)として家事・育児に専念してきた方の貢献が財産分与にどう反映されるかは、裁判所の裁量に委ねられていました。改正後は「婚姻期間」「各自の職業・収入・財産形成への貢献」「婚姻中の生活水準」が法律に明記され、家庭への貢献が適切に評価される根拠が整います。
不動産を持つ方が特に意識すべきは、離婚成立後も5年間は相手から財産分与を請求されるリスクがあるという事実です。マンション・土地などの不動産は価値評価に時間がかかりますが、それを逆手に取った交渉の長期化にも注意が必要です。
また、家庭裁判所が収入・財産情報の開示を命じる権限が強化されるため、「財産を隠せば乗り切れる」という発想も通用しなくなります。
【親子交流】呼称変更に込められたメッセージ
従来「面会交流」と呼ばれていた制度が「親子交流」に改称されます。「面会」という言葉は面会者と被面会者の非対称な関係を連想させますが、「親子交流」という呼称には親子関係は離婚後も対等に続くという理念が込められています。
電話・メール・ビデオ通話など多様な交流形態が包括されるほか、祖父母などこどもの親族との交流に関するルールが新設され、婚姻中に別居している場合の親子交流ルールも明確化されます。
よくある疑問Q&A
まとめ:2026年4月から暮らしはこう変わる
今回の改正は「こどもの利益を守る」「養育費を確実に支払わせる」「財産分与を公平に行う」という社会的課題に正面から向き合ったものです。各制度の変更点を以下の早見表で確認してください。
一方で、共同親権に関してはDV被害者保護の実効性や、父母間の対立激化を懸念する声も法律家の間で挙がっています。制度はあくまでスタートラインであり、実際の運用は家庭裁判所の判断と当事者の協力関係にかかっています。
この記事の内容を参考に、離婚を考えている方・すでに離婚されている方は、弁護士や最寄りの法務局・家庭裁判所への相談を積極的に活用してください。
参考・出典:
- 法務省「民法等の一部を改正する法律について」(令和8年1月最終更新)https://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00357.html
- 法務省「Q&A形式の解説資料(民法編)」(令和8年3月更新)
- こども家庭庁「ひとり親家庭のためのポータルサイト」https://support-hitorioya.cfa.go.jp/revision/
