リード文
不動産所得は5棟10室基準判定を満たした事業規模でないと、青色申告特別控除65万円の上限額を利用できないと思っていませんか?
通常は事業規模がないと10万円控除しか使えないのですが、事業規模ではないマンション1室でも65万円を利用できる方法があるのです。
不動産歴40年で仲介営業やコンサルティングを主に経験してきた私が、その方法を本記事でわかりやすく解説していますので最後までお付き合いください。
本記事の内容は、事業所得と不動産所得の兼業者である私の経験談でもあります。
せっかくの不動産投資ですから、不動産所得と事業所得の兼業による青色申告特別控除の活用で、その利益を最大限に享受しましょう。
それに見合う働き方の変革についても、考えを巡らせています。
不動産所得の青色申告特別控除
事業所得65万円の青色申告特別控除を利用する場合は、事業で生計を立てていれば複式簿記で記帳し、貸借対照表を添付し確定申告の提出を電子申告で行えば、事業の規模には関係なく65万円控除を受けられます。
一方で不動産所得は、一定の事業的規模の有無が、青色申告特別控除の額に影響します。
事業的規模を満たしていれば65万円の青色申告特別控除の上限額を利用できますが、事業的規模と認められない場合には10万円の青色申告特別控除額となってしまいます。

不動産所得の事業的規模の基準判定方法
何をもって事業規模か否かを判断判定するのでしょうか。
所得税基本通達26-9に記されていますので、引用します。
26-9 建物の貸付けが不動産所得を生ずべき事業として行われているかどうかは、社会通念上事業と称するに至る程度の規模で建物の貸付けを行っているかどうかにより判定すべきであるが、次に掲げる事実のいずれか一に該当する場合又は賃貸料の収入の状況、貸付資産の管理の状況等からみてこれらの場合に準ずる事情があると認められる場合には、特に反証がない限り、事業として行われているものとする。
(1) 貸間、アパート等については、貸与することができる独立した室数がおおむね10以上であること。
(2) 独立家屋の貸付けについては、おおむね5棟以上であること。
参考 URL 法第26条《不動産所得》関係|国税庁
これが一般的によく言われている「5棟10室基準」です。
5棟とは、戸建住宅のような独立家屋の基準で戸建の貸家が5つあるなら事業的規模と判定されます。
10室とは、マンションやアパートなどの集合住宅の基準で貸アパートや貸マンションを10室もっているなら事業的規模の判定となります。
仮にアパートやマンションを1棟まるまる貸し付けている場合には、1棟とはカウントせずに、そのアパートやマンション内の室数で判定することになります。
賃貸募集中で空き家・空き室となっていても、すぐに貸せる状態にあれば1棟・1室として数えられます。
その他の事業規模判定においてわかりづらいものは、以下に表としてまとめてみました。

ただし、所得税基本通達26-9に記されていますように「社会通念上事業と称するに至る程度の規模」とあるので、仮に1棟の貸家しかなくても、その1棟が貸付面積が大きくて賃料も高額である場合には、事業的規模と認められる可能性もありますので付け加えておきます。
不動産所得の青色申告準備と提出書類
青色申告の手続きは、申告前に税務署に所得税の青色申告承認申請書を提出することで行われます。
承認申請書の提出期限は、原則として青色申告の適用を受けたい年の3月15日までです。ただし、新規開業の場合には、開業日から2ヶ月以内に提出することになっています。
提出期限を1日でも遅れてしまうと、その年度は青色申告をすることができなくなってしまいますので、提出期限には十分注意しましょう。
所得税の青色申告承認申請書の提出先は、通常は住民票のある住所地を管轄する税務署となります。
住所地を管轄する税務署は、下記で検索することができます。
参考 「国税局・税務署を調べる」国税庁
提出する「所得税の青色申告承認申請書」は、以下のものです。
参考 「所得税の青色申告承認申請手続き」国税庁
青色申告特別控除の最大65万円の特別控除を受けるためには、
- 複式簿記で帳簿を作成すること
- 帳簿を基に作成された貸借対照表を申告書に添付すること
- 確定申告を電子申告で提出すること(または総勘定元帳等を電子帳簿保存すること)
という要件を満たす必要があり、3.を満たさない場合は特別控除55万円となります。
また、複式簿記で作成しない簡易な帳簿の場合には、貸借対照表を作成することができないことから、特別控除額は10万円となります。
以下に表としてまとめました。

「帳簿作成は、自分ではとてもできない」「税理士に依頼するほどの収入もない」と思われる方も多いかもしれませんが、今は簡易で便利な会計ソフトがあります。
会計ソフトを導入すれば、自動的に帳簿はもちろんのこと貸借対照表も作成されますので、65万円控除を受けるために会計ソフトを導入するのはおすすめです。
電子申告に対応している会計ソフトもあります。
私が利用しているクラウド会計ソフトfreeeは、領収書をスマホで撮れば日付や金額を読み取り、電子保存書類としての保管も行えますので簡便で安心です。
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事業所得の青色申告特別控除
事業所得と雑所得の区分はあいまいで、判断しにくい場面も多いですが、事業所得は対価を得て継続的に行う事業というのが判断のポイントになります
事業所得のみの場合で65万円控除を受けるには、不動産所得にあった事業的規模の規定はありません。
簡易帳簿でも正規の簿記の原則に従った帳簿の要件を満たすものが国税庁のパンフレットに例示されており、その要件を満たせば65万円控除も可能ではありますが、基本的には不動産所得の65万円控除と同様な条件となります。
不動産所得と事業所得の両方の組み合わせ兼業の効果
青色申告特別控除は事業所得と不動産所得、山林所得に対して適用されます。ただし、山林所得についてはレアケースなので、多くの人にとって青色申告特別控除といえば事業所得と不動産所得ということになります。
そして、個人事業主として事業所得を得ながら不動産オーナーとして不動産所得も得ている人たちがいます。
このようなケースでは、青色申告特別控除はどのように適用されるのでしょうか?
事業所得と不動産所得の両方がある場合のポイントは以下となります。
事業所得で65万円控除の要件を満たしていれば、不動産所得の事業規模は問われません。
仮にマンション1室のみの貸付でも、不動産所得から青色申告特別控除10万円ではなく65万円控除の選択が可能となります。
さらに不動産所得は青色を維持していればよいため、事業所得との兼用の場合には、不動産所得のみ簡易簿記で複式簿記による記帳・貸借対照表の添付は、必ずしも必須とされていません。
つまり、事業所得につき複式簿記による貸借対照表を添付していれば、不動産所得から65万円の青色申告特別控除を受けることができるのです。(租措法第25条の2Ⅲ)
65万円控除の順番や損益通算・繰越控除との関係
青色申告特別控除については青色申告を行う個人単位で適用することになっていて、不動産所得、事業所得の順に控除していくということが定められています。
参考 租税特別措置法 第25条の2((青色申告特別控除))関係|国税庁
適用は個人単位であり、所得単位ではありません。
よって、個人で事業所得と不動産所得を申告していたとしても受けられる青色申告特別控除枠は最大で65万円です。
所得ごとに適用して最大130万円の青色申告特別控除の適用が受けられるというわけではありませんので注意が必要です。
事業所得と不動産所得の両方がある場合の実際の4パターンのケースを想定し、控除の順番や損益通算・繰越控除との関係をみていきます。
比較して理解しやすいように表にしました。

※損益通算
損益通算とは、ある所得の黒字と赤字を相殺して税負担を軽減する仕組みのことです。たとえば、不動産所得で利益が出ていても、事業所得で損失が出ている場合、この損失を利益から差し引くことで、課税対象となる所得を減らすことができます。
※3年間の損失繰越控除
3年間の繰越控除とは、たとえば事業所得が赤字となり不動産所得などとの損益通算を行ってもなお赤字が残る場合、その赤字は最大3年間繰り越して控除することが可能です。これを「損失の繰越控除」といい、翌年以降の所得から控除することで税負担を軽減できます。
不動産所得と事業所得兼業のおすすめ

ご覧いただきました通り、マンション1室でも青色申告控除65万円の上限を利用できる可能性のある人は、うまく活用するために働き方自体の検討もできますね。働き方変革です。
すでに事業所得でバリバリ稼いでいたり、不動産所得を事業的規模ですでに充分な収入を得ているケースでは該当しませんが、以下のケースのように起業時には検討の価値はあるかもしれません。
たとえば、会社員や公務員で給与所得を得ながら、事業的規模でない不動産所得を節税目的などで保有していた人が、定年退職後の働き方を考える場合。
親の相続で不動産を相続し運用し始めるケースもあるかもしれません。
あるいは、起業してまだ本業の収入が少なく不安定な場合、事業的規模には満たないが安定して見込める不動産所得を持っておき、当面の事業収入面でのバランスを考慮し、兼業の働き方の工夫を施す方法などです。
以下で解説します。
定年退職後の働き方に活かす
人生100年時代と言われ、会社員の定年延長も65歳や70歳までと、繰り下がっているケースが増えてきました。
その分、延びた定年退職後のさらなる再雇用までを考える人は少なくなるかもしれません。
ここはひとつ、キャリアを活かせることや本来やりたかったことにトライするために、定年退職後は個人事業主で活躍される道を選択してみてはいかがでしょうか。
給与所得者から事業所得者への転身です。雑所得の年金収入もあるでしょうから、思い切ったライフワークデザインを描けます。
サラリーマン時代に所得税の節税目的で保有し貸していたマンション1室などがあれば、事業所得と不動産所得の兼業で、青色申告特別控除の上限を活用してください。
給与所得時代は10万円だった青色申告特別控除が、65万円に引き上げられます。
フリーランサー個人事業主の働き方に活かす
最近では、若い世代が終身雇用にこだわらず、フリーランスや起業を選ぶ傾向が増えてきています。
働き方の多様化や、副業の解禁などが影響していると考えられます。
しかし、起業して間もなくは、やはり収入面での不安定性がとても気になると思います。
そこで雇われている給与所得者時代にはローンが組めますから、マンション1室を購入し、貸料収入を得ておいたらいかがでしょうか。
そして、起業後に事業所得と不動産所得の兼業で、青色申告特別控除の上限を活用してください。
収入面での安定性も保てる可能性があります。
また起業間際で、万一事業所得が赤字の場合でも、不動産所得の分から青色申告特別控除を上限まで利用できます。
事業所得の赤字分は、不動産所得との損益通算や3年間の損失繰越控除を利用できます。
※損益通算
損益通算とは、ある所得の黒字と赤字を相殺して税負担を軽減する仕組みのことです。たとえば、不動産所得で利益が出ていても事業所得で損失が出ている場合、この損失を利益から差し引くことで、課税対象となる所得を減らすことができます。
※3年間の損失繰越控除
3年間の繰越控除とは、たとえば事業所得が赤字となり不動産所得などとの損益通算を行ってもなお赤字が残る場合、その赤字は最大3年間繰り越して控除することが可能です。これを「損失の繰越控除」といい、翌年以降の所得から控除することで税負担を軽減できます。
不動産投資の資金があまりない場合でも、気心の知れた共同所有者と不動産投資資金を分け合い、不動産所得を得ることも一考です。
事業がまだ不安定な場合には事業所得と不動産所得を兼業し、将来的に事業が軌道に乗り事業所得のみで青色申告特別控除65万円を利用できるようになれば、不動産の共同所有者と共同売却するという次のステップへの検討もできます。
不動産の所有期間を長期譲渡の5年間超を目途に売却すると、譲渡所得税の税率がかなり軽減されます。
参考 不動産歴40年が語る|賢いマンション売却ノウハウ 2-4-1譲渡所得税
賃借人付きのオーナーチェンジで売るか、賃借人退去後の空き部屋として売却するかは、別途またその時々の時世を鑑み検討すればよいと思います。
不動産小規模投資でも、事業所得との兼業であれば青色申告特別控除の上限65万円を狙え、収入面とのバランスも考慮できます。

まとめ
不動産所得のみでは事業的規模を満たさず、青色申告特別控除が10万円のみだった貸しマンション1室も事業所得との兼業により、控除額を最大の65万円まで引き上げられる可能性があることがわかりました。
たとえば、サラリーマン時代に所得税の節税目的で購入していたマンションがあり、当時のまま10 万円の青色申告特別控除で申告をしていたら、もう一工夫して定年退職後に個人事業主として事業所得者に転身するのも一考です。
青色申告特別控除の上限65万円を享受しつつ、新たな事業収入をあげていくのも人生100年時代の波をつかむ新しい働き方変革かもしれません。
今回の記事は、事業所得と不動産所得の兼業者である私の実体験でもあります。
せっかくの人生ですから青色申告特別控除65万円の支援も背に、適度に働き刺激を受けながら、楽しく前向きに生きていきたいものです。